生息地と分類
生息する地域東南アジアのスマトラ島とボルネオ島(インドネシアとマレーシア)のみ。
生息環境主に低地混交フタバガキ林、低部山地林、川岸林、湿地林。
分類スマトラ島:スマトラオランウータン(Pongo abelii)、タパヌリ オランウータン(Pongo tapanuliensis)
ボルネオ島:ボルネオオランウータン(Pongo pygmaeus)、3亜種に分かれる(P. p. pygmaeus、P. p. wurmbii 、P.p. morio)
形態
オランウータンは樹上で生活している哺乳類の中で、最も体が大きいと言われています。野生ではメスの体重40kg前後、オスは80kg前後、オスはメスの2倍ほどの体格があります。(Rayadin and Spehar. 2015)
オランウータンは、完全な樹上生活者なので、枝から枝へ移動するのに適した骨格をしています。腕は長く、その長さ(前肢長)は、脚の長さ(後肢長)の1.5倍もあります。
私たち人間は足で歩きますが、オランウータンは腕で樹上を歩くようなものなので、長くて頑丈な腕が必要なのです。
採食
オランウータンの主な食べ物は、そのほとんどが植物で、果実・葉・樹皮・花、そして、着生植物、ショウガ、キノコなどです。また、食物の約60%は果実を食べています。オランウータンが食べる植物の種類は非常に多く、今までに報告されているだけでも107科316属831種(12か所の調査地の合計)にのぼり、この値は現在もさらに増加しつつあります。
オランウータンの食物(果実)
オランウータンの食物(葉・樹皮・その他)
葉 |
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樹皮 |
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花 |
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食物が多様な理由
オランウータンの食物が多様な理由は、そもそもオランウータンが生息する熱帯雨林の種の多様性が非常に高いためです。
例えば、A調査地にある植物が別なB調査地にはない、ということが珍しくないためだろうと推測されています。
実際、3か所の調査地から報告された502種のうち、2か所以上で共通して採食されていたのは32種しかなかったという報告もあります(Russon, A et al 2010)。
その他では、アリやシロアリなどの昆虫も食べます。また、まれにですが、スローロリスやリスなどの小型哺乳類を食べたという報告があります。
社会性
オランウータンは、霊長類の中で最も単独性が強いと言われます。
母親と赤ん坊は2頭で生活しますが、それ以外の個体は、基本的に1頭で生活しています。
しかし完全に単独性というわけではなく、お互いにどこにだれがいるのかを把握していて、他者との距離を保ちながら生活しているようです。
集団生活をしない理由
果実が豊富なアフリカの森林に生息しているチンパンジーは、群れで果実を食べたとしても一頭一頭が十分に果実を食べることができます。一方、果実が少ない東南アジアに生息するオランウータンの場合は、体の大きな彼らが集団で、わずかしかない果実に一斉に押し寄せると、果実をすぐに食べ尽くしてしまいます。果実が少ない季節には、全員が満足できるほどの量はありません。よって果実が少ない環境下では分散して単独で活動し、個々が満足な量を食べられるようにしているのです。そのため果実が豊富な果実期には、2~3頭が一緒に、同一の果樹で採食する例もたくさんあります。
オランウータンの生息密度
オランウータンの生息密度を決める要因は、生息地の森林がどのくらい果実を生産できるかを示す「果実生産量」です。これまでの研究から、スマトラオランウータンは、ボルネオオランウータンよりも、生息密度が高いことがわかっています。これは、スマトラ島では特に果実生産量が高いことと関係していると言われています。
スマトラ島
火山帯があるスマトラ島では、火山性土壌で土壌栄養が豊富なために、ボルネオ島よりも果実生産量が高く、果実が豊かな期間が長く続きます。果実資源が十分にあることで、オランウータンは、分散して採食する必要がなく、集団で生活できるために生息密度が高いと考えられています。
ボルネオ島
ボルネオ島には、火山がほとんどなく、スマトラのように土壌が栄養豊富ではないため、果実生産量が低く、果実が不足した期間が長く続きます。そのためボルネオオランウータンは、その少ない果実資源を分散して採食するために生息密度が低いと考えられます。
メスの生活史
11歳~15歳で性成熟に達し、野生では15歳~18歳くらいで最初の子を出産します。妊娠により陰部が少し膨らむので外観からでも確認できます。妊娠は平均270日(9か月)、3歳頃から母親と同じような食物を食べるようになりますが、独り立ちする6~8歳まで授乳が見られます。
メスの顔の変化
赤ん坊(3歳頃まで)は目と口のまわりが白く、頭髪がまばらで立っています。子ども(3~7歳)は口のまわりが年々、黒くなっていきます。ワカモノ(7~15歳)は口のまわりが完全に黒く、目のまわりの白い部分が少し残っています。また、頭髪が長くなり、オトナとほぼ同じ状態になります。メスは18歳頃に最初の子を産みますが、20代前半頃まではまぶたが白いので、年をとった雌と区別することができます(まぶたが黒くなる年齢は、個体差があります)。
▲イラスト:John Paul Todd Pantaleon
子育て方法
樹上で赤ん坊を抱っこしながら生活するため、1産1子で双子はほとんど産まれません。3歳を過ぎると母親と同じ物を消化できるようになりますが、3歳以後も長く一緒に過ごすことで、森の中に点在する果実の木の場所や結実する時期を学ぶと考えられています。果実は、毎年実がなるものもあれば、数年に一度しか実がならないものもあるので、生きていくために必要な食用植物を学ぶには、長い期間が必要なのでしょう。
やがて母親の次の出産(弟か妹)を機に、少しずつ母親と離れて行動し、やがて独立します。親子が一緒に行動する期間は、スマトラでもボルネオでも平均7.6年で、霊長類の中では最長です(van Noordwijk et al. 2018)。野生のオランウータンの寿命は50年~60年と推定されているので、メスは4~6頭くらい出産することになります。
オスの生活史
性成熟は個体差が大きく、飼育下では7~12歳頃、野生化では15歳頃と言われています。
オスの成熟特徴は、性的に成熟すると優位な個体だけに顔の両側に「フランジ(Flange)」と呼ばれる大きな頬のひだが現れます。フランジは英語で、「でっぱった部分」な どの意味があります。
オスの顔の変化
赤ん坊と子どもの顔は、メスとほぼ同じです。ワカモノ (7~15歳)は、メスより早く目のまわりが黒くなり、オトナ(15歳頃~)になると、まぶたも含めて顔は完全に黒くなります。
▲イラスト:John Paul Todd Pantaleon
フランジの利用と発達
フランジは、自分の行動範囲(遊動域)に侵入しようとした他のオスを威嚇したり、メスに自分の繁殖能力をアピールしたりするときに利用され、実際の自分の姿よりも大きく見せる効果があると言われています。専門的には、フランジがあるオスは「フランジ・オス」、フランジが出ていないオスは「アンフランジ・オス」と呼びます。アンフランジ・オスも性成熟しており、繁殖能力があり、子どもの父親になった例が野生下でも報告されています。
興味深いのは、オスのフランジは年齢ではなく、社会的な優劣関係に左右されて発達するという点です。若いときはアンフランジで、やがて成長してすべてのオスにフランジが出てくる、というわけではありません(Maggioncalda,et al. 1999)。
例えば、ある地域に数頭のオスがいたとします。その地域の中にいた優位なフランジ・オスが、その土地から遠方への移動や死亡などの原因で、いなくなりました。すると、その地域で、次に優位なのは自分だと自覚しているオス1頭だけが、フランジを発達させます。その際には、男性ホルモンの一種であるテストステロンや成長ホルモンの値が急上昇することがわかっています。一方、自分が劣位であると自覚しているオスは、フランジの発現を抑制し続けるので、一生アンフランジのままのオスもいると考えられています。
オランウータンについて
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